研究課題/領域番号 |
03251239
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研究種目 |
重点領域研究
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | (財)東京都神経科学総合研究所 |
研究代表者 |
黒田 洋一郎 東京都神経科学総合研究所, 神経生化学研究部門, 副参事研究員 (30073084)
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研究分担者 |
川原 正博 東京都神経科学総合研究所, 神経生化学研究部門, 主事研究員 (40224828)
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研究期間 (年度) |
1991
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研究課題ステータス |
完了 (1991年度)
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配分額 *注記 |
2,400千円 (直接経費: 2,400千円)
1991年度: 2,400千円 (直接経費: 2,400千円)
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キーワード | 連想記憶 / 大脳皮質 / 海馬 / ニュ-ロン閉回路 / トレ-シング回路 / 記憶強化 / 健忘 / シナプス可塑性 |
研究概要 |
本年度はヒトノ記憶メカニズムにおいて組織レベルで重要な役割を担っているとされる海馬の構造機能に付いて総合的な考察を加え、「トレ-シング回路・海馬連合強化モデル」を提唱し、国際誌に発表した。 海馬がヒトノ陳述記憶に重要であるという考えは、両側性に海馬とその周辺を切除されたてんかん患者、H.M.が前向性健忘症を示したという症例によって強く示唆されている。本モデルは1989年に発表したヒト記憶トレ-シング回路説を発展させたものでヒト海馬の強化(consolidation)機能の実体が呈示出来るばかりでなく、2つ以上の記憶ニュ-ロンを結び付ける連合機能も海馬にあるという新しい考え方である。 最近明らかになってきた海馬内外のニュ-ロン回路構造と機能のデ-タをふまえ、海馬の強化・連合機能モデルを考えついた。先ず、海馬と大脳皮質には海馬傍回を介した両方向性の投射があるという報告は、大脳皮質にある記憶ニュ-ロン回路とつながった閉回路の存在を可能にする。この閉回路は大脳皮質の記憶ニュ-ロン回路のトレ-シングをより延長し、長期記憶へのシナプス変化をより促進し、記憶の強化メカニズムの実体となる。しかも、海馬での主なニュ-ロン回路である入力→CA3→CA1→出力というニュ-ロン回路のうち、1つのCA3ニュ-ロンからCA1ニュ-ロンへの投射は、数百μmの厚さで輪切りにした切片中では殆ど起こっておらず、長軸方向のほぼ全長に渡った他のCA1ニュ-ロン群の樹状突起に対して行われていることが本重点研究の石塚班員らによって報告された。 この重要な発見は海馬のある部位のCA3から遠く離れた部位のCA1ニュ-ロンへの投射径路により、全く異なった感覚入力による異なった大脳皮質部分に同時に出来た2つの記憶回路同士が簡単に連合出来ることを示している。しかもこの歯状回→CA3→CA1シナプスがLTPを起こすのである。さらに、膜電位感受性色素を用いた海馬長軸方向への興奮の広がりの観察も、この様な長軸方向を結ぶ回路が機能的にも存在し重要な働きをしていることを支持している。一方、大脳皮質内でも、繰り返し同時に呈示された2つの情報の間には直接または言語系などさまざまなより高次の情報を介して間接的に、連合が形成されるに違いない。 海馬を中心とする入出力系は、視床下部との連絡など非常に多様である。今後、大脳皮質ー海馬の機能的空間的特異性がどのくらいあるかなどを始め、海馬を中心とするニュ-ロン回路の詳しい構造と機能が判明すれば、海馬の持つであろうまだ未知の高次情報処理機能が明らかになると期待できる。
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