研究概要 |
心筋組織における興奮伝搬過程を解析する上で,各細胞のイオン電流および活動電位発生のダイナミックスを含め,伝搬に主要な役割を果たす活動電位の立ち上がり部分を詳細に表現できる単一細胞モデルを用いたシミュレ-ション解析が有用と考えられる.我々は,不整脈などの興奮伝搬現象を解析するためには,生理的状態で測定された活動電位を定量的に表現できるモデルの構築が不可欠と考え,膜の保持電位を変化させ発生させた活動電位,およびそれらの微分波形に基づいて新しいHodgkinーHuxley型Na電流モデルを構築した.その結果,Beelerら(1977)による心室筋イオン電流モデル,Ebiharaら(1980),Drouhardら(1985)によるNa電流改良モデルと比較して,以下の生理実験結果を表現できことが明らかとなった.1)V_<max>の膜電位依存性,2)膜電位および微分波形のダイナミックス,3)37℃での膜電位固定実験におけるNa電流の活性化・不活性化過程および電流電圧特性.したがって,この単一細胞モデルにより興奮伝搬過程についても定量的表現が可能と考え,こうした視点から,モルモット乳頭筋標本を用いた興奮伝搬実験を行うとともに,1次元および2次元興奮伝搬シミュレ-ションを行った.両者の比較の結果,1つの細胞が他の6つの細胞と結合した2次元hexagonal modelを用いることにより,実験結果をより定量的に表現できることがわかった.この場合のgap conductanceの値も従来の生理学的知見を満足しており,hexagonal modelの妥当性を確認した.したがって,hexagonal modelを用いた興奮伝搬シミュレ-ションにより,実験的測定が困難である生体内の興奮伝搬過程を予測でき,今後,異常興奮伝搬現象,あるいは抗不整脈薬投与などに対応したシミュレ-ションを行うことにより,不整脈の原因究明に大きく貢献できるものと考える.
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