研究概要 |
我々は細胞周期の基本的な制御が行われ,多くの細胞性癌遺伝子が機能していると考えられるG1,G2期に作用する薬剤を探索し、その化学療法として可能性を探ると同時にそれら特異的阻害剤を複雑な細胞周期制御のネットワ-クを解明するための道具として利用していこうと考えている。本年度は以下の3点の成果が挙がった。 1)プロテインキナ-ゼ阻害剤K‐252aによる細胞の多倍数化:広範な探索からプロテインキナ-ゼ阻害剤K‐252aが調べた限り全ての細胞系に対してそのDNA含量を多倍数化させることをフロ-サイトメトリ-を用いて明らかにした。各種同調培養と代謝阻害剤の共存実験から,K‐252aの存在下ではG2期から速やかにG1期への移行が起こり,分裂を経ないまま次のS期へ進行することがわかった。この時P13^<suc1>に結合するヒストンH1キナ-ゼ活性は,M期での強力な活性化が認められず,S期での弱い活性化が周期的に観察された。K‐252a処理によって多倍化した細胞は巨大な単核細胞となり,48時間以内に最大32Cをもつ細胞が蓄積した。 2)レプトマイシン耐性遺伝子の解析:分裂酵母のレプトマイシン耐性遺伝子をクロ-ン化したところ,ヒトMDR1と高いホモロジ-を示す遺伝子pmd1^+を得た。本遺伝子をマルチコピ-で導入した野生型分裂酵母は多剤耐性を示したことから,本遺伝子は下等真核生物で始めて同定された機能的なP‐糖蛋白質ホモログであると考えられる。 3)新しい細胞周期阻害剤の探索:カビの一種が生産するG1,G2期特異的阻害剤を精製し,構造解析した結果,以前抗カビ剤として報告のあったラディシコ-ルであると同定した。本物質の作用機構を詳細に解析した結果,特異的なチロシンキナ-ゼ阻害剤であることが明らかになった。今後有用な生化学試薬になると考えられる。
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