研究概要 |
脊髓後角I・II層には多くのペプチドが分布しており、温痛覚の伝達あるいはその修飾に働いていると考えられている。しかし、その詳細は不明である。そこで、本年度我々は、これらのペプチドの産生が、疼痛刺激によりどのように変化するかということを、in situハイブリダイゼ-ション(ISH)法とNorthern blotting法により遣伝子レベルで検討した。ラット足底へのフォルマリン注入、アジュバント関節炎や熱刺激により、脊髓後角においてpreproenkephalin A(ppEnk),preprodynorphin(ppDYN),preprogalanin(ppGal),preprotachykinin(PPT),preproCRH mRNAを発現するニュ-ロンの著明な増加が認められたが、preprosomatostatin,preprocholecystokinin,preproneurotensinの場合は、上記刺激では変化を示さなかった。これらの事実は、各ペプチドによりその機能的役割が異なることを示している。 後角I・II層に分布するGalanin陽性細胞については、光顕的・電顕的観察によりそれらがIslet cellであることを明らかにした。すなわちこれらの細胞は、その樹状突起を吻尾方向に延ばし、樹状突起内に多数のシナプス小胞を含んでいる。また、一次知覚終末を直接その樹状突起に受けている。 これらのペプチドの増加に先だって、後角においてcーfos mRNAが増加し、Fos蛋白に陽性を示す核を持つ細胞が多数出現した。ISH法と免疫組織化学とのコンビネ-ションにより、疼痛刺激によりppEnk,ppDYNを発現する細胞の70〜80%が同時にcーfosを発現することを明らかにした。このことは、疼痛刺激によるペプチド発現にprotooncogeneが関与していることを示している。
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