研究概要 |
各種刺激物を膀胱内腔に投与し排尿反射と自発性放電の変化を検討したところ、4%パラホルムアルデヒド,25%テレピン油の何れかを注入後に,反射の閾値の上昇並びに放電の増大が発生した。これは対照として行なった生理的食塩水,流動パラフィンの注入後には発生しなかったので末梢神経終末への刺激による変化と考えた。この実験を基にプロトオンコジ-ンの一つであるCーfosの逸疫組織化学法を用いて脊髄における骨盤臓器の疼痛知覚経路の検索を行った。ラットをウレタン麻酔し膀胱内に生理的食塩水,刺激物の何れかを注入し,2時間後に潅流固定した。対照群ならびに生理的食塩水注入群では見られなかったCーfos陽性反応が,ホルマリンないしテレピン油注入動物では腰仙部脊髄において、L6(60%)を中心としたL5ーS1の分節に認められた。 Cーfos発現細胞は脊髄L6の後角表層のLaminae I,II層、VーVII層、ならびに後交連からX層に存在した。これはHRP法により明かにされた、骨盤神経ないし膀胱の一次求心性終末の分布と類似していた。また雌の膣部にテレピン油を注入し検討したところCーfosはLaminae IーIII層に限局して見られ、これも膣よりの一次求心性終末の分布とほぼ一致していた。 末梢の骨盤神経節ならびに脳幹にそれぞれ別々の蛍光色素を注入してL6脊髄におけるCーfos発現細胞との関係を検討した。平均15%のCーfos陽性細胞が上行性神経細胞に、5%が副交感神経節前ニュ-ロンに存在した.従って多くのCーfos発現細胞は脊髄内投射細胞と考えられた。MK801,グルタミン酸NMDA受容体拮抗剤の経静脈的に投与により,テレピン油注入によって発現してくるCーfosの数は1/3ー1/4に減少した。一方、CNQX、非NMDA受容体拮抗剤によっては変化しなかった。生理学的手法により膀胱収縮に対する両薬物の効果を検討したところ、両者とも抑制を示した。これらの結果は、膀胱からの疼痛知覚と、純粋な排尿反射の為の知覚の伝達に関し、NMDA受容体の関与の違いがある可能性を示すと考えられた。
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