研究概要 |
トリコスタチンA(TSA)は強力で特異的なヒストンデアセチラ-ゼ阻害剤であり,細胞周期の進行をG1,G2期で特異的にブロックする。TSAを用いてヒストンアセチル化の生物学的意義を明らかにすることを目的として研究を行った。 1)TSAの腫瘍細胞に対する作用:トランスホ-ム細胞に対するTSAの作用を系統的に調べた結果,形態変化,細胞分化が誘導されるものと速やかな細胞死が引き起こされるものの2群に分けることができた。これらの作用はいずれも新たな蛋白合成を必要としていた。既知遺伝子の消長を調べたところ,c‐myc遺伝子の顕著な減少が観察され,ヒストンアセチル化との密接な関係が示唆された。 2)新しいヒストンデアセチラ-ゼ阻害剤トラポキシンA(TPX)の発見:TPXはsisートランスホ-ム細胞の形態を正常化する環状ペプチドとして最近発見された化合物であるが,我々は新たにヒストンデアセチラ-ゼの阻害剤として再発見した。TPXはTSAと異なり不可逆的に酵素を阻害したが,興味深いことに細胞周期,細胞分化等に及ぼす作用はTSAのそれとほとんど同じであった。 3)分裂酵母S.pombeのTSA超感受性株の分離:TSAは酵母には増殖阻害作用を示さないが,これは酵母ヒストンデアセチラ-ゼが動物のものに比べて著しく感受性が低いことに起因していた。そこで変異処理を行い,低濃度で増殖が停止する超感受性株TSS101を分離した。この株はTSAのみならずTPXにも超感受性を示したことから,ヒストンデアセチラ-ゼ自身に変異が生じたものである可能性が高いと考えられるので,その解析と急ぎ行っている。
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