研究概要 |
ヤグルマギクの懸濁培養細胞は,紫林光照射によりアントシアニン色素の生成を誘導する。これまでに,色素生成の誘導はチヤルコンシンタ-ゼ(CHS)遺伝子の転写レベルの調節であること,また遺伝子発現の結果生成された色素は,紫外光による遺伝子の傷害を防御していることなどを明らかにしている。本研究は,この実験系を用いてCHS遺伝子の紫外光による発現制御機構を明らかにすることを目的として行い,本年度は、光受容体およびシグナル伝達機構を追跡するため,CHS遺伝子の発現に対する光光用スペクトルの測定および単離核によるin vitroでのCHS遺伝子転写系の確立を試みた。また,CHS cDNAおよびCHSゲノムDNAのクロ-ニングを行った。 大型スペクトログラフ(基生研)を用いて,260〜700nmの波長について光強度に対するCHSm‐RNA生成量を測定した。可視域では,CHS m‐RNaの生成は検出限界以下であったが,紫外域(260〜400nm)で互いにほぼ平行な入射光量子強度ー反応曲線を得た。その結果は,CHS‐mRNAの生成誘導が一つの光受容体によるものであること,またそれは280‐300nmに作用ピ-クをもつことが明らかとなった。単離核でのin vitro転写系の実験では,単離核がm‐RNA合成能をもつことまたあらかじめ光照射した細胞からの核で,RNA合成のinitiationがおこることを強く示唆する結果が得られた。in vitro転写系をほぼ確立できたので,この系により光受容から遺伝子発現への過程の追跡が可能となった。CHS cDNAのクロ-ニ-ングでは,1.5kbpおよび1.6kbpのほぼ全長と考えられる2種のクロ-ンが,またゲノムDNAについては約5kbpのフラグメントを含むクロ-ンを得ることができた。現在,シ-クエンスを進めつつある。
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