研究概要 |
神経細胞の分化,成長の過程に一致して神経細胞内では蛋白質リン酸化活性が急速に高まり,シナプスが形成されると高い活性を保ちつづける。蛋白質リン酸化反応は神経情報伝達機構と密接に関連している。一方,カルモデュリン依存性プロテインキナ-ゼII(キナ-ゼII)は脳神経系で非常に高い活性をもち,神経機能の調節,例えば,神経伝達物質の合成と分泌,細胞内情報伝達,シナプスの可塑性などに中心的な役割を果すと考えられている。これらの点を生化学的に解析するために,培養神経細胞にキナ-ゼII cDNA,および,3の変異cDNAを導入し,酵素を発現させ,機能解析を行うことが1つの解決策であると考えられる。神経細胞にcDNAを導入することは,最初は困難であったが,導入条件とプロモ-タ-を検討することにより,キナ-ゼII分子を発現する細胞を得ることに成功した。導入細胞のキナ-ゼ活性はコントロ-ル細胞の2ー3倍であった。キナ-ゼIIに対するモノクロ-ナル抗体を用いて調べると,細胞管に強い反応性を示し,また,核周囲および内部にも点状の陽性斑が認められた。細胞は継代直後の浮遊した状態ではほゞ球状を量した。cDNA導入細胞はコントロ-ル細胞が形態変化を示さない継代直後30分時に,すでに全体の50%が偏平化し,一部に突起形成が認められた。細胞の増殖率や接着率に関してはキナ-ゼ発現による影響はなかった。従って,神経細胞におけるキナ-ゼIIの発現が細胞の形態変化と突起形成に密接に関係することが明らかとなった。一方,キナ-ゼIIの変異cDNAを用いた機能解析を行ったところ,Ca^<2+>およびカルモデュリンによる調節を受けず,常に活性化された酵素を産生するcDNAを細胞に導入した場合には,細胞の増殖が抑制され,細胞死が起ることが見出された。このことは,キナ-ゼIIの活性異常により細胞内の情報伝達系が影響を受けるためと考えられ,その分子メカニズムを今後明らかにする。
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