研究概要 |
セリン:ピルビン酸トランスアミナ-ゼ(SPT)のオルガネラ局在は動物種属により異なり,独得である。すなわち,ヒト,ウサギ等の肝臓ではペルオキシソ-ムに局在し,ラットでは同一遺伝子由来の5'末端の長さが異なる2種類のSPTーmRNAから,それぞれミトコンドリアへ移行すべき運命を持つミトコンドリアSPT(SPTm)前駆体とペルオキシソ-ムへ移行するSPT(SPTp)が合成される。本研究では,ラットSPTpおよびヒトSPTのペルオキシソ-ム局在に焦点を合わせて実験を行い,次の結果を得た。1.cDNA移入培養COS細胞に発現させたラットSPTp,ヒトSPTはいずれも選択的にペルオキシソ-ムへ移行した。各種欠失cDNAを発現させた実験から,SPTのC末端30以内のアミノ酸残基の部分にペルオキシソ-ム標的シグナル配列があるか,あるいはこの部分が同シグナル形成に関わっていることが示唆された。一方,COS細胞に発現させたラットSPTm前駆体は大部分ミトコンドリアへ移行した。極く一部(約1/100)ペルオキシソ-ムへの移行も認められたが,これはmRNAの内部ATGコドンからの翻訳に由来するものらしい。2.ラットSPT遺伝子が第9染色体長腕(g)34ー36に存在することを明らかにし,且つ近交系ラットでのRFLPの解析により同遺伝子が一種類であることを確認した。3.SPT遺伝子のコ-ド領域にT→C点変異があり,このためSPT蛋白にSer→Pro変換が予想される原発性高蓚酸尿症1型の症例におけるSPT欠損を解析した。その結果,この症例の肝臓では変異SPTが合成されていると推定されるにもかかわらず検出されないのは,速やかな分解を受けているためであることがほぼ明らかになった。COS細胞での発現実験からこの変異SPTがペルオキシソ-ムへ移行し得ることは明らかであるが,その効率が低くサイトゾルに長く留まるため早い分解を受けるのか,あるいはペルオキシソ-ムへの到達過程で分解されるのかが次の課題となった。
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