研究概要 |
大腸菌の蛋白質分泌における膜リン脂質の挙動と寄与を分子レベルで解析するため,(1)リン脂質組成をさまざまに改変するための変異株群の構築,(2)これらの株におけるTEMβ‐ラクタマ-ゼの分泌能の解析,及び(3)酸性リン脂質合成欠損変異の細胞致死性の外膜主要リポ蛋白欠損による抑制現象の分子機序の解析,をそれぞれ次のように行った。 (1)遺伝背景統一のためW3110株から出発し,酸性リン脂質合成欠損変異pgsA3(lpp‐2変異と共存),カルジオリピン合成酵素完全欠損変異cls::kan,ホスファチジルセリンシンタ-ゼ温度感受性変異pssA1の各変異を単独及び組み合わせて保持する株,並びにこれらの野生型遺伝子の発現増幅プラスミド保持株を構築した。 (2)TEMβ‐ラクタマ-ゼ遺伝子をラクト-スオペロンプロモ-タ-の支配下においた多コピ-プラスミド及びラクト-スオペロンリプレッサ-遺伝子を持つプラスミドの両者をpgsA3変異株に保持させ,IPTGで誘導すると,対象野生型株に比べβ‐ラクタマ-ゼ前駆体が顕著に蓄積することを見いだした。抗β‐ラクタマ-ゼ抗体を用いるこの系の分析条件を確立した。 (3)pgsA3変異を培養条件によって許容するlpp^+株を見いだし,酸性リン脂質合成欠損時の外膜主要リポ蛋白の分泌過程を調べた。その結果,プロリポ蛋白の修飾及びシグナル切断はほぼ正常に起こるが,グリセリド修飾の速度が低下していること,この低下はpssA1変異により改善され,pssA遺伝子の増幅発現により増大することを見いだした。lpp欠損以外にpgsA3の致死性を抑制する変異の検索も行い,酸性リン脂質合成改善以外の変異は調べた限り無効で,リポ蛋白に極めて特異的であることが分かった。
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