研究概要 |
平成3年度においては血管内皮細胞の流れに対する検知機構を細胞内カルシウムの動態の面から検討し、そのセカンドメッセンジャ-の変化が内皮由来平滑筋弛緩因子(EDRF)の放出にどのように関わるかを検索した。牛胎児大動脈から培養した内皮細胞に独自に考案・製作した流れ負荷装置を用いて種々の速度の流れを加え、その際の細胞内自由カルシウム濃度の変化をカルシウム螢光指示薬のFuraー2と螢光測光顕微鏡で測定した。またEDRFは内皮細胞をビ-ズ上に培養しカラムに詰め,それにATP,ブラディキニン(BKN),アセチルコリン(Ach),A23187,チメロサ-ルを含む潅流液で刺激し,そのeffluentを兎大動脈切片にかけその張力の変化から測定した。結果として細胞外ATPの存在下で内皮細胞に段階的に速度を増加させた流れを負荷すると細胞内カルシウム濃度がそれに伴って段階的に上昇するのが観察された。逆に流速を減小させるとカルシウム濃度も低下を示した。こうした速度あるいはずり応力の大きさとカルシウム濃度との間には有意な正相関が認められた。つぎに内皮細胞をATPで刺激すると濃度依存性にカルシウム濃度は上昇し,EDRF放出量も増加した。一方Achでは両者に変化を生じなかった。BKNは最初の刺激のみカルシウム・EDRFの増加を観たがその後の刺激に対してはタキフィラキシスが生じた。A23187,チメロサ-ル共に両者の増加が観られたが濃度依存性ではなかった。即ち細胞内カルシウムの変化とEDRF放出とは密接に関与していることが示唆された。以上の結果から血管内皮細胞にはある濃度の細胞外ATPの存在下で流れの速度あるいはずり応力の変化を定量的に細胞内カルシウム濃度の変化に変換する機構即ち流れ感知機構の存在が示された。またこうした流れの情報がカルシウム濃度の変化を介してEDRFの放出を制御し,引いては血管のト-ヌスを調節している可能性も考えられた。
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