研究概要 |
動脈内壁を裏打ちしている内皮細胞は外側の基底膜によって極性単層に組織されている。この基底膜は外側の平滑筋細胞の多重層にも作用して血管構造をまとめ上げている。内皮細胞と平滑筋細胞の間に介在する基底膜は、両者の相互作用を知るためにも重要な研究対象である。基底膜の主要糖蛋白質であるラミニンは、細胞機能に特に強く作用することが知られている。EHS腫瘍から多量に精製できる「典型的」ラミニンは、A、B_1とB_2鎖が会合してジスルフィド結合で安定化された十字架状の構造体である。我々は内皮細胞がA,B_1,B_2に加えてA^1を合成し、B_1B_2を共通の前駆体にA B_1B_2とA^1B_1B_2を同時に形成することを示した。また、この2種類のラミニン複合体の合成比が血管新生などの内皮細胞の動的状態に応じて変動することも発見した。本研究ではこれらのラミニンの構造と機能を解明するために、我々が新規に発見したA^1鎖のcDNAクロ-ニングを当面の目標とした。そこで、ウシ大動脈内皮細胞(BAEC)のcDNAライブラリ-を構築し、ラミニンA^1鎖の全長cDNA配列決定をめざして予備実験を重ねた。このために、10^8細胞規模のBAEC培養からポリA^+RNAの調製を重ね、オリゴdTをプライマ-にλZapII中のライブラリ-を構築した。これをラットのA鎖cDNA群をプロ-ブにスクリ-ニングしたが有望なクロ-ンは得られなかった。我々が単離したラットのB_1鎖cDNAはポジティブクロ-ンを与えたので、A鎖とA^1鎖のホモロジ-が低いことが示唆された。また、A鎖類似体であるメロシンのcDNAを入手してプロ-ブとしたが有望なクロ-ンは選択できなかった。そこで、A^1鎖を精製して抗体プロ-ブや合成ヌクレオチド配列の情報を得るためにBAECの大量培養を開始した。現在、ここから得られる粗抽出液をもとにA^1B_1B_2という新しいラミニン複合体の精製法の確立を急いでいる。
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