血管平滑筋は独立に存在しているのではなく結合組織層にはさまれて存在している。また、筋層内にも結合組織が複雑に入り込んでいる。他方、生化学的な研究に最もよく用いられるニワトリ砂胃平滑筋では0.3ー0.5mmの間隔で結合組織が編目状に存在しており、平滑筋細胞は一方向向けに並んで網状結合組織に結合している。そこで、ニワトリの胚の中で編目状の結合組織と一方向向けに並んだ平滑筋細胞の構造がどの様にして形成されるかを調べた。砂胃(筋胃)は産卵後3ー5日には腸管の膨らみとして観察され、産卵後7日目には直径1mmにまで成長した。しかし、この段階まででは平滑筋特有の網状結合組織ならびに一方向に並んだ平滑細胞は観察されなかった。また、細胞は方向性を持たず、比較的丸い構造をしていた。産卵後9ー11日目で細胞層の一部で網状結合組織の形成が観察された。網状結合組織は最初細胞層の薄い腸腔の端近くに形成され、その後細胞層全体に広がった。網状結合組織が形成されている部分、ならびにその周囲では細胞は細長くなり、一方向を向いて並ぶのが観察された。これらの細胞は抗ミオシン抗体で染色された。また、結合組織はアニリンブル-で染色された。産卵後12目で砂胃は直径約3mmになり、孵化時には直径1cm、成鳥では直径は4cmにまで成長するがこの間は砂胃の構造は本質的には変化しなかった。以上によりニワトリ砂胃平滑筋の分化に関して次のような知見が得られた。平滑筋細胞は最初もっぱら増殖し、分化はその後で起こる。平滑筋になる細胞と結合組織をつくる細胞は最初は区別できない。平滑筋ならびに網状結合組織への分化は同時に起こり、分化は器官の特定の部分から全体に急速に広がっていく。分化した後も器官の大きさは組織の形態を保ちながら増していく。これらの知見は血管平滑筋の分化とその機能発現に対しても種々の示唆を与えている。
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