研究概要 |
1991年6月に今世紀最大規模といわれる大噴火をしたフィリピン,ピナツボ火山で1991年11月末から12月中旬にかけて,噴火災害の現地調査を行なった.12月6日には,フィリピン国立大学において開催された,ピナツボ噴火のシンポジウムに出席し,現地の研究者らから情報を収集し,今回の調査の中心を降下火山灰の調査におくことにした.これは,噴火後の土石流の頻発によって,火砕流本体へのアクセスが極めて困難であることと,最大の噴火をした6月15日の噴火の推移がはなはだ不確定であるが,降下火山灰の調査からこれを明確にすることができると判断したためである. 火砕流本体へは東側のサコビア川と南西側のセントト-マス川流域から到達し,火砕流の内部構造,構成岩石種,粒度分布の調査を行なった.火砕流の内部は噴火堆積後6箇月を過ぎ,雨期に多量の降雨があったにもかかわらず,100℃を超える場所もあり,伏流した川水が高温域で加熱され,2次爆発をおこすこともあった.火砕流の到達範囲は山頂から7ー15kmの範囲内であるが,雨期にそれから発生した土石流は50kmを超える地点まで到達したものもある.土石流はまた他の支流をせき止め,その支流の上流側に巨大な湖を発生させた.このようなせき止め湖の出現により,多くの村落が水没したが増水速度はそれほど速くなかったために,犠牲者は発生していない. 降下火山灰の分布域,粒度組成の調査,および現地住民からの聞き取り調査により,降下火山灰の大部分は6月15日午後の噴火にともなったもので,山頂から四方八方に流下した火砕流によってまきあげられた巨大な噴煙に由来するものであることがわかった. 山頂部での噴火活動は,12月現在では鎮静化しており,山頂部に形成された直径2kmのカルデラ内には直径500m程度の湖が出現しており,部分的に水蒸気を主体とする噴気が認められる程度であった.
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