研究概要 |
認知と情動について,その相互作用を明らかにし,情動の働きについて,その情報処理過程におよぼす生物学的機能を解明することが,この研究課題の目的である。当初の研究実施計画に記述されている如く,電撃を無条件刺激とする条件性情動刺激に対する行動的あるいは認知的対処について,また脳活動電位,心拍活動,選択反応時間などの分析を通して,認知と情動の相互作用を検討してきた。最も注目すべき成果は,低圧低酸素(hypobaric hypoxia)環境下で得られた。それを以下に示す。 皮質覚醒水準を低下させるhypobaric hypoxiaは,一般に事象関連電位(event-related brain potentials)の著しい減衰をもたらす。特に認知過程を反映すると考えられているP3成分の振幅は減少する。しかしながら,不快な情動を喚起する視覚刺激に対して心拍活動の増進,心理的情動評価のネガティブ・シフトが起こる。一方,事象関連電位P3成分は,要求された課題に応じて異った振幅の変化をみせた。不快情動刺激が認知課題遂行中に提示されたとき,P3の振幅は減少するが,同じ刺激が情動課題の遂行中に提示されると,逆にP3成分の振幅は増大した。またそのP3振幅の変化は情動価に依存している。これらの事実は,P3成分の基礎には少なくとも2つの異った過程,認知過程と情動過程が独立に存在し,皮質覚醒水準に依存して相互補償的に機能していることを示喚している。認知処理と情動処理の間のかかるrole-sharingは,survivalという観点から重要な生物学的意味をもつものと理解される。
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