研究概要 |
本研究は,神経回路網による表現と論理式表現との相違を明かにすることを目的として,神経回路網がもつ時間の弁別および利用の機構を明かにすると共に,それを用いた学習機構のモデルを明かにした.くわえて,論理式表現の一形式であるペトリネットにおいて,動的に到達できる状態の集合をペトリネットの構造と初期状態から論理的に明らかにできるクラスを定めた. まず,神経回路がそこでの動作信号であるパルスの巾より短い時間差を検出する機構を明かにすると共に,それを用いた並列処理機構を提案し、それがきわめて短い時間で大量の情報処理を行うことを検証した.ついで,神経回路網が自己学習能力をもつためには,多様な試行を生成する機能および多数の試行の中から適切な行動を見いだせる機能,の2つの機能の存在が本質的であることから,これらの機能を実現する機構を,視床,海馬,新皮質系における神経解剖学的知見に基づいて,モデル化し,その動作を検証した.第3部では,論理式表現のクラスの一つであるペトリネットについて,それが到達できる状態の集合を,ネットの構造および初期状態から論理的に明らかにできるクラスを与えた. これにより,神経回路網が実現する学習能力においては,時間の要素が本質的であることが明かとなった.また,論理式表現においては,時間要素を学習機能を形成する形で導入できないことから,両者の学習能力を区分するものが,時間の弁別および利用にあることを明かにした. 神経回路網における時間の役割は従来指摘がなかったところである.これを積極的に利用することにより,学習能力がきわめて高い神経回路網を各種の目的に応じて作り出すことが期待できる.
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