研究概要 |
1.酸素濃度と製造法が異なる7種類のシリコンウエハを異なったスペクトルの中性子場(京大原子炉の圧気輸送管と熱中性子設備,東大の高速中性子源炉)で照射した。照射済みのシリコンウエハについて電気抵抗率の測定を行った。また,その両面に金及びアルミニウムを蒸着し,それぞれショットキー電極及びオーム電極を構成した。そして,生成された格子欠陥のエネルギー準位と準位密度とを半導体中不純物測定装置を用いて測定した。昨年度は室温における測定のみ行ったが,今年度は液体窒素温度に近い90Kから350Kまで測定した。この結果,これまでは格子欠陥生成に余り有効ではないと言われていた熱中性子が欠陥生成に大きな役割を果していることが分かった。また,従来報告されていなかったエネルギー準位の欠陥が見つかり,現在,この欠陥の種類を解明しようとしている。 2.京大工学部のタンデム加速器を用いてシリコンウエハに酸素及びシリコンビームを打ち込み,生成された欠陥濃度分布をチャンネリング法によって測定した。本年度は照射ビーム量の測定方法をより正確に行える改良をした。また,後方散乱スペクトルから欠陥濃度を解析する方法について理論的検討を加え,デチャンネリング評価に一回散乱,多重散乱を同時に考慮する方法を新たに考案した。その結果,欠陥濃度分布が精度良く首尾一貫して得られるようになった。実験で得られた欠陥濃度分布によると,生成される欠陥は表面付近の比較的小さく照射量に依存しない欠陥と,イオンのレンジ付近で鋭くピークをなす,照射量により急激に増加する部分からなっており,2種以上の欠陥種が関与していることが分かった。このため新たにイオンにより生成した点欠陥の再結合,拡散,欠陥クラスターの生成,欠陥クラスターを核としたアモルファスの生成,蓄積を考慮したモデルを作成した。モデル計算により,実験データは良く再現されたが,これによると表面付近は点欠陥で,ピーク部分は主にアモルファスで構成されていることが明らかになった。
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