生体膜の融合は生体機能の中の重要なプロセスである。これは物質の取り込み(ウィルスなど他生物の細胞への感染、機能物質の細胞への取り込みなど)のみならず、細胞内での物質輸送(細胞内オルガネラ間での蛋白質移送など)、膜の自己分裂(細胞内小胞体の形成や細胞分裂など)等の際の基本過程である。一般にはこれら膜融合はそれぞれの過程に固有の蛋白質が司っているが、膜融合そのものはそれら蛋白質の一部分のみで誘起されることが最近判ってきた。即ち蛋白質の部分的なアミノ酸配列を持つペプチドで膜融合を起こさせることができるようになったが、合成ペプチドの使用は、系を単純化すること、ひいては基礎的な物理化学的手段で膜融合を解析することを可能にしたものである。本研究ではこの観点に立脚し、 1.ある要請を満たすアミノ酸配列を持つ20残基のペプチドが実際に人工膜小胞の融合を引き起こすことを確認し、 2.この融合活性ペプチドが実際に膜と結合していること、その結合状態がα-ヘリックス構造をとって起こっていること、 3.このα-ヘリックスはリン脂質膜面に対し約20度で配向していること、またペプチドのN-末端の修飾は膜融合活性を低下させるがα-ヘリックスの配向自体は変わらないこと、 などを明らかにした。ペプチドの膜内配向の決定はフーリエ変換型赤外分光器を用いた減衰全反射スペクトルの解析により行われた。これらに関して、3に述べた末端残基の重要性や、活性に必要なアミノ酸配列の問題などは将来に残された重要な問題であろう。
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