研究概要 |
分子の光化学反応は,その分子の励起状態の性格に大きく依存する。励起状態の波動関数の性質とその状態で起こる光化学反にはどのような関連があるのかを研究することは,微視的な電子の動きが結果として現われる反応にどのように影響するかを理解する上で興味深い。そこで本研究では,特定の電子状態に選択的に励起するとどのような光化学反応が起こるかを主に発光分光法を用いて研究することを目的とする。本研究を遂行するために,定常光照射の発光分光測光システム及び時間分解発光分光測定システムを製作した。そのための発光側分光器,光検出器及び制御装置を購入した。励起光源と励起側分光器は,既存のものを用いた。新たに製作した定常 光照射の発光分光測光システムは,従来のものに比べて飛躍的に感度が高く,研究能率が著しく向上した。サリチルアルデヒド関連分子の第一第二励起一重項状態からの発光を観測し,プロトン移動反応の励起状態依存性について議論することができた。また,理論的研究の結果,有機分子の光化学反応への波動関数の節の効果を見い出した。さらに,サリチルアルデヒド関連分子の低位三重項状態とイオン状態のプロトン移動,2-(2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールと2-(2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾキサゾールと2,2'-ビピリジル-3,3'-ジオールの最低励起三重項状態のプロトン移動,カロテノイドの第一第二励起一重項状態からの緩和機構への溶媒効果,ピリジン類のりん光が極めて弱い理由の解明などに関する研究成果を得た。本研究に関して,日本化学会より「化学のフロンティアVII」に選出され,また「若い世代の特別講演者(第6回)」に選ばれた。さらに,アメリカ化学会発行の「The Journal of Physical Chemistry」の特集号に招待論文を執筆した。(95巻10229〜10235頁、1991年)。
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