研究概要 |
中性リン脂質および酸性リン脂質を研究対象物質として選び,これらの脂質が組織化する分子集合体の形状ならびに熱力学的安定性の相違を熱測定と電子顕微鏡観察から追跡した。(1)中性リン脂質,phosphatidyl-choline(一般にPC)は超音波照射によってエンタルピーの高い小さいサイズ,一重膜ベシクルを形成するが,不安定性のために3〜4重膜のベシクルを経て,多重膜ベシクルへの安定化を試みることを明らかにした。なほ,この研究において安定化中途過程に出現するベシクルの構造とゲル-液晶相転移との相関関係を明らかにした。さらに超音波エネルギーを与えることで多重膜ベシクルが如何に不安定化するかをエンタル項から解明した。(2)酸性リン脂質,phosphatidylglycerol(PG)はpH3よりも大きいpH領域で負電荷を有することが知られている。従って,塩(対イオン)無添加の状態では,静電的効果によってこの脂質は無限に水に膨潤し,多重層形成が不可能になることが明らかにされている。そこで0〜1000mMのNaCl共存下での研究を開始したが,Na^+イオンのPG負電荷のシャヘイ効果はゲルおよび液晶相温度で著しく異なることを明らかにした。すなわち,ゲル温度では負電荷へのNa^+の結合はこの温度での熱処理によって徐々に強められ,最終的にはこの結合は円柱状の結晶性二分子膜構造の超分子集合体を形成することを明らかにした。これまでの研究からはNa^+結合の程度はPGの水への膨潤を抑制する程度であると報告されていたが,我々の研究からは,Co^<2+>,Mg^<2+>と同様のシャヘイ効果をNa^+が有することを初めて明らかにした。この超構造体は液晶相温度ではNa^+からPG負電荷から解するために,もとのMLV構造に変えることも明らかにされた。又,MLVゲルから超構造体への移行過程を電子顕微鏡観察から解明した。
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