研究概要 |
分子認識系の構築は選択的分離分析のみならず金属の関与する生体内反応、膜透過、水圏における金属イオンの動態、重金属の解毒剤やシスプラチンなどの医薬品の開発、希元素や核燃料の分離、精製など巾広い化学の基礎となる反応である。代表者らは分離、分析化学を中心分野として分子認識系、すなわち選択的錯生成系を構築するための新規の配位子を合成し、これらの認識反応の解析を進めた。これらに関する20篇の研究論文を報告したが、ここでは最も基本となる分子認識創製のための配位子設計の基本理念について概要を述べる。すなわちβ-ジケトンの一種である4-ベンゾイルイソオキサゾロンが極めて強い酸(pKa=1.23)のため分離試薬として望ましい性質を持つが、金属イオンの分離には適さないことを見い出した。ここでMNDO/Hを用いて配位原子間距離を計算した所、HTTA,HPMBP,HPBIはそれぞれ2.5,2.7,2.9Aであることが判明した。即ち配位原子間距離がβ-ジケトンのpKaおよびイオンサイズを認識する1つのパラメーターであることが予測された。そこで一連のバイトサイズ以外のパラメーターは殆ど無視できるトリフルオロアセチルシクロアルカノンを合成し、同様に検討した。その結果バイトサイズがβ-ジケトンのpKaとイオンサイズ認識に大きな役割を果たしていることを見い出した。一方ポリピラゾリルボレート系配位子(KH_nBPz_<4-n>,n=0,1,Pz:ピラゾール基)においてHBPz_3ではMg^<2+>,Ca^<2+>と安定な錯体を生じるが、BPz_4^-ではMg^<2+>とのみ錯体を生じCa^<2+>と反応しないというイオンサイズ認識性を示した。これはBPz_4^-の配位子に関与しないPzによって配位原子間距離がイオンサイズ増大に応じて拡大しないことに起因するといった、全く新しい分子認識法を解明した。従来選択的な配位子の開発は殆ど試行錯誤に頼っていたが、報告者らにより初めて配位原子間距離の剛直性が重要なパラメーターであることを実証した。
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