研究概要 |
タイプIII銅タンパク質は特有の磁気的・電気化学的・分光学的性質をもっている。これらの性質と構造の関係を明らかにするために,以下のモデル錯体を系統的に合成し,それらの物理化学的性質を調べることにより上述のタンパク特有の性質と銅周辺部の構造の関係について考察を行った。 1.オキシム状N-O^-と水酸化物イオンなどで橋かけした混合配位子複核銅(II)錯体を合成した。そのなかで,水酸化物イオンで橋かけした錯体では,2個の銅(II)間に強い反強磁性的相互作用をもつ錯体を得た。 2.二核配位子であるシッフ塩基を含み,アルコール性酸素とアジ化物イオンなどで橋かけした複核銅(II)錯体を合成した。これらのなかで,タイプIII銅タンパクと同様の反磁性で且つ可視部に大きい吸光係数を示す錯体を見い出した。 3.イミダゾール窒素含有二核配位子を含み,アルコール性酸素とアジ化物イオンなど各種の橋かけ配位子で橋かけした複核銅(II)錯体を合成した。得られた錯体中,アジ化物イオンを含む錯体(反磁性)以外では銅(II)間の反強磁性的相互作用は小さいことが判明した。 4.イミダゾール窒素含有二核配位子を含み,2個のアジ化物イオンやチオシアン酸イオンなどで橋かけした複核銅(II)錯体を合成した。これらのなかで,水酸化物イオンまたはピラゾレートで橋かけした錯体では銅(II)間に強い反強磁性的相互作用が見られること,またアジ化物イオンまたはチオシアン酸イオンで橋かけした錯体ではタイプIII銅と類似の電気化学的性質を示す錯体を得た。 以上のモデル錯体の研究から,タイプIII銅特有の磁気的性質は複核銅(II)錯体内の各銅(II)の配位平面が同一平面に近いことが重要であることが明らかになった。
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