研究概要 |
極限環境に棲息する好塩性菌,好酸性菌などの古細菌の細胞膜脂質モデルとして 1,2-diphytanyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DPhyPC),DPhyPCの長鎖アルキル基置換体である1-eicosyl-2-phytanyl-sn-glycero-3-phosphocholine,酸性脂質である1,2-diphytanyl-sn-glycero-3-phosphate(DPhyPA),および,好酸性菌によく発現する1分子に2つの極性基を持つ脂質のモデルとして2,2'-Dotriacontanedioylbis(1-palmitoyl-sn-glycero-3-phosphocholine)[(DPPC)_2]を合成した.各脂質について次の特徴を認めた. DPhyPC: 超音波処理により安定なリポソーム(小胞)を与えた.蛍光染料などの物質を80℃もの高温度域までよく保持し,優れた耐熱性を示した.pH4のプロトン勾配を小胞内外につけて,H^+の透過性を測定したところ,20℃にて0.7×10^<-5>cm/secもの小さな透過係数を示した.H^+を含むこれら物質の透過に対する大きな抵抗性は極限環境下での古細菌にとって好適な特性と考えられる. DPhyPA: リポソームを容易に与え,その分散液は非常に安定であった.特に本脂質はリン酸基を極性部に有するので,中性脂質との混合物から形成される小胞は膜表面に負の荷電(ゼータ電位)を有した.特に.-20〜80℃の温度範囲において相転移温度を示さず,常温でも液晶状態にあり,5(6)-カルボキシフルオレセインなど種々の物質に対し高い保持力を有したことは薬物運搬体の構成素材として期待される. (DPPC)_2: この脂質は好酸性菌に普遍的な双極性脂質を参考にしたものであり,特異な構造から特に膜の形態に関して研究した.分散水溶液を電子顕微鏡により観察したところ,常に平面状の膜を与えることを認めた.上記の耐熱性,耐塩性脂質と混合すればリポソームを形成したが,ホスホリパーゼA_2を作用させたところ脂質膜の外面のみのホスホコリン基が加水分解され,非対称な膜が得られた.人工的にはじめて調製された安定な非対称膜として注目される.以上のように,古細菌型の脂質は特異な性質を有する分子集合体を形成した.通常脂質膜には見られない特長は薬物運搬体,バイオリアクターなどのコート剤として適していると考えられる.
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