研究概要 |
平成3年度においては,n-3系脂肪酸欠乏食で飼育した母親から生れたラットは,ドコサヘキサエン酸(DHA)食や大豆油食(対照)より,大脳リン脂質,とくにホスファチジルエタノールアミン中のDHA含量が著しく低く,離乳後にDHAを補給するとリノレン酸投与よりもDHAレベルの回復が速いこと,また欠乏食群では学習能が対照群より劣り,欠乏食群にDHAを補給するとリノレン酸を与えたときよりもすみやかに学習能が回復することを明らかにした。大きな神経節を持つ動物としてアメフラシに着目し,その脂肪酸組成を食餌脂肪酸により変動させようとしたが,摂餌量が極めて低く,目標の動物を作成することができなかった。 平成4年度においては,DHA欠乏がどのような機作で脳機能に障害を与えるか検討することを目的とし,学習能より簡単な脳機能として,電気ショックに対する抵抗性を取り上げた。その結果,n-3系脂肪酸欠乏により,てんかん症状の中でとくに昏睡時間が顕著に延長した。また,抗てんかん薬を投与後電気ショックを与えると,DHA投与群や対照群ではてんかん症状の大巾な軽減が認められたが,欠乏群ではその効果が弱かった。脳内の各種神経伝達物質の定量を行ったところ,大脳皮質で欠乏食群のノルアドレナリンが有意に低下していた。ノルアドレナリンの低下は,てんかん誘発との関連があることがすでに知られているので,n-3系脂肪酸欠乏は神経伝達物質代謝に影響することにより,脳機能に障害を与えることが示唆された。さらに,単離神経細胞を用いた電気生理学的な実験により,カフェインに対する閾値がn-3系脂肪酸欠乏により上昇することが示された。
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