研究概要 |
α-アルシル-β-テトロン酸を金属イオン捕捉基とするポリエーテル・イオノフォア抗生物質としてテトロノマイシンとテトロナシンの2種が知られている。本研究は,共通する10個の不斉中心が鏡像関係にある両天然物の効率的全合成を達成するとともに,同等以上の活性をもつ構造単純化モデルの創製をめざすもので,これまでに天然テトロノマイシンおよびテトロナシンの初の(現時点で唯一の)全合成に成功した。 1,ポリエーテルAB環部の合成:テトラヒドロフラン単位を共通の出発原料L-ラムノースより,テトラヒドロピラン単位を市販の(R)または(S)の3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸メチルより調製,両部分の連結によって両天然物のポリエーテル部を合成した。 2.シクロヘキサンC環部の合成:4連続不斉中心をもつ脂環部のエナンチオマーを2種のルートで調製した。1つは1-シロキシメチル-3-メトキシ-5-メチルシクロヘキサジエンと(2-アセトキシ)アクリロニトリルの環化付加体より誘導した双環ケトン中間体を光学分割,そのオキシムをベックマン開裂にかけるものである。第2のルートは,ビス共役エステルの環元的閉環を鍵工程とするもので,この新規反応の展開についても検討中である。 3.全合成:AB環エステルとC環アルデヒドとのアルドール反応によってABC環を構築した。ついで、テトロノマイシンの場合はABC環アルデヒドとγ-メチレン・テトロン酸メチルとのアルドール縮合を,テトロナシンではABC環アルデヒドとジアゾアセトキシ酢酸メチルの反応で得たβケトエステル中間体の閉環を実施,それぞれ天然物へ誘導した。なお,この全合成により天然物の絶対構造を確認するとともに,融点の大幅な訂正をおこなった。
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