研究概要 |
3年間にわたってこれまで我が国では全く研究されていない三畳紀小型有孔虫化石を炭酸塩岩を中心としてその抽出・採集に鋭意努力した。その結果各地の石灰岩や足尾山地では驚くべきことにチャートからもかなりの標本を発見することに成功した。また三畳紀有孔虫の先祖形である最後期ペルム紀の小型有孔虫標本なども集められた。これらは薄片作成ならびに酸処理などによっての岩石からの分離作業等進められた。この室内作業は岩石溶解に長時間を要するために,すべて完了していないが,すでにかなり進展し,多くの個体標本や定方位薄片が完成した。また我が国だけでなく,東南アジアのタイ国やマレーシア国,北アメリカ太平洋岸地域のものなど,広くテーチス海域のものが関連標本としてかなり集められた。これら多くの標本についての古生物学的研究には,基礎資料としてこれまで主としてヨーロッパ各地,とくにスイス,オーストリア,イタリーなどで蓄積された資料の検討が必要で,多くの文献を検索し,486種についてその種属の妥当性を吟味するとともに,産出層序,系統学的な関係などを改めて探究した。これらはsynoptic listとしてまとめられた。三畳紀小型有孔虫の全般的な進化傾向としては要約すると,比較的情報の乏しい下部三畳系でもかなりドロマイト化作用の進んだ炭酸塩岩からも小型で原始的な巻型の有孔虫化石が産出すること,中部三畳系になると種数ならびに属数ともに多くなり,InvolutinidaeやOphthalminiinaeなどが分化し,上部三畳系では繁栄の極が見られる。これらの傾向は炭酸塩岩の形成や,scleractinian coral,spongeなどの繁栄時期と一致することが明確になった。
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