研究概要 |
水稲は,ケイ酸を積極的に吸収蓄積するケイ酸植物であり,ケイ酸施用により乾物生産及び子実収量が顕著に増大する.しかし,その基礎となる光合成・蒸散に対するケイ酸の生理的作用は明確ではない.本研究はこのような背景にたって,平成3年以来3年間にわたって乾物生産に対するケイ酸の効果を光合成速度,蒸散速度及びそれらの律速因子を中心に環境要因との関連から生理学的に究明した.平成5年度は平成3年度,4年度の成果をふまえて,特に光合成能力の維持に関連して細胞膜の安定性について生理組織学的に究明した. まず,水稲の生長形質及び乾物生産に対するケイ酸施用効果を,生態型の異なる品種を用い,遮光処理との組合せから検討した結果,施用効果は日本型のコシヒカリおよびニシホマレで顕著であること,遮光処理によって効果が促進されることが明らかとなった.生長解析から,その施用効果は純同化率の差であり,純同化率の向上は,下位葉の光合成速度の能力維持に起因していた. 次に,光合成に対するケイ酸の影響を検討した結果,効果は気孔開閉作用を含むガス拡散系に顕著に認められ,ケイ酸施用した葉身の気孔は,光,湿度変化に敏速に反応するとともに,低湿度下,低CO_2濃度下で,気孔開度を抑制し過剰な蒸散を抑え,水利用効率を高めている事実が明らかになった.さらに,青色光,気孔内腔のCO_2濃度に対する気孔反応の検討から,孔辺細胞の開閉機能にケイ酸の関与が示唆された. 最後にケイ酸の光合成速度の能力維持に関連して,細胞膜の安定性を検討した結果,ケイ酸施用は葉身表皮面のwax含量とクチクラ層の発達を促し,葉身の保水能力を増大させること,また細胞壁成分含量を増加させることによって細胞膜の安定性に寄与していることが明らかとなった.
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