研究概要 |
魚類免疫系の発生過程の解明は,稚仔魚の耐病性機構を解明し斃死という水産養殖上の問題を解決するための手がかりを与えるものとなり極めて重要な課題である。本研究は,仔稚魚期における自己の免疫系の発達と,親魚血漿中IgMの卵稚仔への移行現象という二つの異なる生体防禦機構解明のための基礎的検討を行なった。 研究手法開発の手がかりを得るため,ナマズIgMに対するモノクローナル抗体の作製を試みた。その結果,1gMのH鎖に対する抗体を得た。これにより,免疫系の発達過程について,免疫組織化学的に検討するとともに,イムノブロッティング法による卵中IgMの検出を試みた。 ナマズ仔魚リンパ組織におけるリンパ球機能発現過程について免疫組織化学的に観察した結果,リンパ球の存在は腎臓では孵化後3日,胸腺では5日,脾臓では4週後に認められたが,細胞膜上にIgMを持つ機能的に成熟したリンパ球(おそらくB細胞)は,腎臓では7日,脾臓,胸腺では4週後に初めて認められた。これらのことから,リンパ器官の出現してからそれらが機能を有するまでには,かなりの時間が必要なことが明らかとなった。特に脾臓の出現が遅れることから,魚の免疫系がかなり長期間未発達な状態であることが示唆された。 抗IgMモノクローナル抗体を用いた,卵抽出液のSDS-PAGE・イムノブロッティング分析の結果,卵中IgMの存在が確認された。また,H鎖の分子量が血漿のものと異なることが観察されたが,コイの場合とは逆に卵中のものの方が大きかった。卵中IgMの存在は,ニジマス,マダイでも認められた。特にマダイではビブリオで免疫した親魚から得た卵中に抗ビブリオ活性を持つIgMが認められたことから,卵中IgMが発生初期の生体防禦に関わっている可能性が示唆された。
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