研究概要 |
クロイツフェルト・ヤコブ病(以下CJDと略す)の原因因子としてプリオン蛋白が提唱されている。以前までは,組織学的に異常プリオン蛋白はクル班と呼ばれるアミロイド沈着にのみ証明可能であり,CJD患者の大部分では,異常プリオン蛋白の局在を同定しえなかったが,我々は,加水分解の原理に基づいた前処理法を開発し,CJD患者全例に異常プリオン蛋白が証明可能であることを報告した.検出できた異常プリオン蛋白は中枢神経系の灰白質に広く分布し,シナプスを染色するシナプトフィジン抗体の分布と同一であった。さらに詳しく2重染色にてシナプスとプリオンの免疫染色性が一致することを同定した。またCJD患者脳より生化学的にシナプトゾーム,ミクロゾーム,シナプス小胞を分離し,シナプトゾームに最も高濃度にプリオン蛋白が存在することを証明した.プリオン蛋白遺伝子解析として,PCR(polymerase chain action)法によるダイレクトシークエンスを行い新しい変異型を5種みいだした.コドン105の変異は,日本の家族性痴呆でみとめられ,クル斑を主体とし,シナプスをおかすことは稀である。以前は,家族性痙性麻痺と診断されていた。コドン145の変異は,アルツハイマー病型の臨床症状を呈し,蛋白学的にはストップコドンとなり,C末約100コのアミノ酸のない変異型プリオン蛋白より構成されるクル斑が存在し,シナプスには沈着しない。コドン180,232の変異は,CJD患者で認められ,この変異では今のところクル斑はなく,主にシナプスをおかす。最後に,96bpの挿入変異を証明した。この挿入変異は,クル斑を形成し,シナプスは軽度に沈着するのみであった。この2年間にわたる本研究では,新たに異常プリオン蛋白の沈着部位として,中枢神経系のシナプス,リンパ系の樹状細胞を明らかとしたことと,ヒトプリオン蛋白遺伝子の変異を新たに5種類発見した。
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