研究概要 |
恙虫病リケッチアには数種の血清型が存在するが、我々のこれまでの研究から、このリケッチアの血清型とマウスに対する病原性の間に一定の関係の存在することが明らかとなった。この血清型を決定している因子はリケッチアの表層に存在する56KDa(キロダルトン)蛋白の型特異的抗原性による。従ってこの56KDa蛋白の分子構造と病原性の間に関連性があると考えられる。そこで本研究では、強い病原性を示すGilliam,Karp,Katoの3株と、弱い病原性を現すKawasaki,Kuroki,Shimokoshiの3株の計6株の56KDa蛋白の分子構造を明らかにすることを目的として研究を開始した。まず、Gilliam,Karp,Katoの3株から56KDa蛋白を精製して、化学的方法によりそのN-末端アミノ酸配列を明らかにし、続いてその配列に基ずいて作成したプローブを用いて、それぞれの株の56KDa蛋白遺伝子をクローニングした。そしてその遺伝子の塩基配列の解析により、各株の56KDa蛋白の全アミノ酸配列を明らかにして、それを株間で比較することに成功した。その結果、この蛋白は521〜532個のアミノ酸よりなること、この蛋白は膜蛋白としての性状を示し、N-末端に22個のアミノ酸よりなるシグナルペプチドが存在すること、株間のアミノ酸配列の相同性は60〜82%で、分子中に4カ所の可変領域が存在すること、ORFの上流に複数のtandem promoterが存在すること、などが判明した。さらに患者及びツツガムシから得られた分離株についてPCR法でそれらの56KDa蛋白遺伝子を増幅し、それを各種制限酵素で切断したときのパターンを電気泳動法で比較することにより、Gilliam,Karp,Kuroki型の各分離株はさらにいくつかの亜型に分類されることが明らかとなった。以上の検索で、株間での56KDa蛋白構造上の差異は予想以上に大きく且つ複雑で、病原性に関わる領域を推定することはできなかったが、今後の研究に大きい手がかりが得られた。
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