研究概要 |
1.尿細管障害の指標である尿中β2-マイクログロブリン(U-β2m),α1-マイクログロブリン(U-α1m)の安定性に関する検討を行った.U-β2m、U-α1mともに尿pHの低下とともに排泄量は低下した.とくにU-β2mはpH6.0以下では急激な減少がみられた.U-β2mは37℃,pH5.0以下では6あるいは15時間加温条件により90%以上減少した.pH5.5では約50%,pH5.7では15%減少した.U-α1mはpH5.0では約16%,pH5.5では約14%減少した.膀胱内ではU-β2m,U-α1mともに変性・減少が起きていると考えられるが,U-β2mに比較しU-α1mはより安定であった. 2.カドミウムの長期経口暴露による健康影響を明らかにするために,カドミウム汚染地域住民を対象に尿細管障害の疫学調査を実施した.カドミウム汚染地域内の11集落に居住する45〜61歳の男120名,女125名を対象に早朝尿を採取した.神通川水系以外の1集落の同年齢の男31名,女36名を対照とした.カドミウムによる腎障害の早期指標である尿中α1-マイクログロブリン(U-α1m)をEnzymeimmunoassay法により測定した.その結果カドミウム汚染地域住民のU-α1mは対照より有意に高値であり,近位尿細管機能障害の発生を認めた.高U-α1m(対照の95%信頼区間推定上限値:男11.8mg/g cr,女10.8mg/g cr)を示した例は男18例(18.9%),女13例(11.6%)であり男により高頻度にみられた.その理由として男の汚染地域居住年数44.0±16.8年は女の35.1±13.8年に比較し長く,したがってカドミウム暴露量も多いためと考えられた.尿カルシウム排泄の有意な増加は骨量の低下を引き起こすことから,この年代においても骨影響についての評価が必要であると考えられた. 3.米由来のカドミウム暴露の指標としての血液および尿中カドミウムの意義を明らかにするために,富山県神通川流域カドミウム汚染地域の女性住民73例を対象に血液,尿ならびに自家米中カドミウム濃度を測定し相互の関連について検討した.その結果血液中カドミウムは4.4〜30.2ng/ml(平均10.9ng/ml)と対照の平均2.4ng/mlに比較し有意に高値であった.血液と尿中カドミウムとの間には有意な相関(r=0.494,p<0.001)がみられた.しかし米中カドミウムとの間には血液,尿ともに相関はみられなかった.これは暴露の指標として米中カドミウム濃度を用いたが個々の1日摂取量と必ずしも一致しないこと,血液中カドミウムは食物からの暴露を示すほかに体内のカドミウム代謝の影響を受けること,尿中カドミウムは尿細管障害の指標と良い相関がみられたことから腎障害に影響されていることなどが考えられた.
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