研究概要 |
【1】実験的検討:雑種成犬24頭をペントバルビタール麻酔下に胸部大動脈と左内胸動脈の遮断により脊髄虚血とし,FPCを記録した。非脱分極性筋弛緩剤非使用群12頭と使用群12頭の2群に分け,更にそれぞれをFPC消失後20,30,40,50分間遮断を継続した後,遮断を解除した。FPCは弛緩剤使用時にも導出感度をあげることにより非使用時と同様に良好に導出でき,全例で動脈遮断後3分以内に消失した。後肢麻痺の出現頻度はFPC消失後20,30,40,50分間遮断継続でそれぞれ0/6,2/6,5/6,6/6であった。 【2】臨床的検討:一時バイパスあるいは部分体外循環を用いた胸部および胸腹部大動脈瘤手術13例にFPCモニタリングを施行した。high dose fentanyl麻酔,vecueonium0.05mg/kg/hrを持続注入し,直接の筋電位であるM波の波高を筋弛緩剤使用前の10〜20%に維持して良好なFPCモニタリングが可能であった。脊髄虚血が発生するとFPCの出現頻度が減少し,続いてFPCが消失することが観察された。FPCが消失しなかった6例には対麻痺はなかった。FPCの消失は7例に認められたが,そのうち消失後1,2,13,19,29分後に血流を再開しえた5例には対麻痺は見られず、血流再開がFPC消失後23分となった1例に不全対麻痺,肋間動脈の切離後FPCが消失したまま経過した1例に完全対麻痺を経験した。完全対麻痺の1例を除く全例にFPCの再出現がみられた。 【3】結論:FPCは足部から無侵襲的に得られる筋電位で,脊髄前角細胞の電気的興奮性を直接反映しており,非脱分極性筋弛緩剤使用時にも導出可能である。脊髄虚血ではFPCの出現頻度が減少し,続いてFPCが消失するが,FPC消失後20分以内に脊髄虚血を解除すれば対麻痺発生を防止できる。FPCモニタリング法は術中の脊髄虚血を早期に探知しうるので有力な脊髄虚血モニターとなりうる。
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