研究概要 |
脳腫瘍の放射線治療後に出現する脳の高次機能障害である“放射線脳症"の病態を解明するため,以下のような動物モデルを作製した。 1.生後6カ月のFischer344ラットの全脳に5Gy×8回の分割照射を施行し,体重や行動の変化を観察し,照射後6,9,12カ月の時期に,Morrisの水迷路と受動的回避学習の2つの課題を用いて,高次機能障害の出現の有無を検討した。いずれの課題でも照射後6カ月では軽度の差であったが,12カ月では明らかに照射ラットに障害が認められた。照射後12カ月で電気生理学的検査を施行し,脳波の徐波化を認めた。 また,オートラジオグラフィーにより糖代謝を検討し,低下を認めた。組織学的には,照射後1年まで,組織の壊死は認められず,抗GFAP(glial fibrillary acidic protein)抗体による免疫染色で,GFAP陽性の反応性アストロサイトの増加を認めた。これらの結果から放射線照射による痴呆モデルが作製できたと考えた。 2.生後4〜15日の幼若ラットの頭部半側に5〜15Gyの照射を加えることにより,ミエリン形成障害の程度を評価できるモデルを作ることができた。MBP(myelin basic protein)とMAG(myelin-associated glyco-protein)に対する抗体を用いた免疫染色で,ミエリン形成障害が線量依存性に認められた。神経細胞や血管の障害は認められず,このモデルのミエリン形成障害は照射のオリゴデンドログリアに対する直接の障害によるものであると考えた。
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