研究概要 |
P糖蛋白が脳内毛細血管内皮細胞及び脳腫瘍の細胞膜透過性に及ぼす影響について、薬物動態学的、生化学的及び免疫組織化学的な検索を行った、ラットの脳に15万個の9Lグリオーマ細胞を定位脳的に移植した後2週間目に,1)ラジオアイソトープでラベルした薬剤を頚動脈内に注入し,5秒間での脳内及び腫瘍内への移行を液体シンチレーションカウンターにより測定し,Oldendorfらの方法により解析した.さらに,2)薬剤を細胞外に排出することで癌細胞の多剤薬剤耐性に関与するP-糖蛋白の有無を,C-219モノクローナル抗体を用いて脳内毛細血管,腫瘍内血管及び腫瘍細胞膜において免疫組織化学的に検索し,3)これらの超微構造との関連を検索した.その結果,1)血液-脳関門を移行しないはずのシュクロースは9Lグリオーマ内に脳内への取り込みの5倍移行した.MCNUと5-FU,アドリアマイシンはシュクロースと同様に正常脳内へはほとんど移行しなかったが,ACNUはシュクロースよりは有意に多く移行した.MCNUとアドリアマイシンはコントロールであるシュクロースと同様,腫瘍内には十分に取り込まれたが,腫瘍細胞内へは取り込まれなかった。一方,ACNUと5-FUは腫瘍細胞内にも著明に取り込まれた.5-FUの培養9Lグリオーマ細胞内への移行は,ATP阻害剤や4℃の培養液中で著しく減少した.2)脳内毛細血管の内皮細胞と9Lグリオーマの腫瘍細胞膜では免疫組織化学的にP-糖蛋白の発現がみられたが,腫瘍内血管の内皮細胞にはみられなかった.3)腫瘍内血管の内皮細胞には電顕的に多数の窓形成や内皮細胞の腫大,及び内皮細胞間隙の開大等が観察された.以上より,MCNUや5-FU,アドリアマイシンの脳内への移行のみならず,MCNUやアドリアマイシンの9Lグリオーマ細胞内への移行は,それぞれ脳内毛細血管内皮細胞膜と腫瘍細胞膜に発現したP-糖蛋白による細胞外排出の為制限されているものと推定された.
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