研究概要 |
細胞内カルシウムイオン濃度([Ca^<2+>]i)を指標にして眼球脈絡膜の生理的機能を調べた.有色家兎眼球脈絡上板摘出伸展標本にCa^<2+>感受性螢光指示薬,fura-2を用いた螢光顕微測光法を適用して[Ca^<2+>]i動態を観察した. アデノシン三燐酸(ATP)を細胞外液中に添加すると,脈絡上板の[Ca^<2+>]iが著明に上昇した.初期の急速な[Ca^<2+>]i上昇相は細胞外液のCa^<2+>濃度にあまり影響されず,これに引き続く持続相は外液Ca^<2+>濃度に依存していた.初期相は,ATPが細胞膜外面に存在するnucleotide receptorと結合し,情報がGTP結合蛋白質により細胞内部のフォスフォリパーゼCに伝達され,イノシトール三燐酸(IP_3)産成を促進して細胞内カルシウム貯蔵部位からのカルシウムイオンを放出させたためと考えられる.持続相は細胞外液からのCa^<2+>流入ではないかと考えられる. 一方,脈絡上板の外液中のカリウムイオン(K^+)を取り去ると[Ca^<2+>]iは一過性に急激に増加した後一度回復し,再度増加するという独特な三相性の変動を示した.これは細胞自身に備わる細胞内カルシウム濃度維持機構が時間的にずれて発現したものと思われる.特に,二番目の回復相は,ATPまたはUTPを事前に短時間適用しておくだけでかなりの長時間にわたり効果が延長されることから,nucleotide receptorを介する細胞内部の代謝的カルシウム濃度維持機構活性化が関与するのでないかと考えられ,今後の詳細な検討が必要である. このように脈絡上板が生理学的機能を持つことが判明したので,今後は眼機能における脈絡上板の役割,臨床的な病態との関わりなどについて検討していく必要がある.現在,強度近視の発生機序との関わりにおいて,強膜軟骨細胞の培養を行い,[Ca^<2+>]i測定,脈絡上板との相互作用等についての試みを検討している.
|