研究概要 |
【1】健康成人男性5名の被験者に,自発性にチューインガムの咀嚼ならびに上下の歯を接触させないでリズミカルな開閉口運動を行わせ,これに一致するヒラメ筋H反射の変調について検索し,(1)どちらのリズミカルな顎運動の遂行中にも,H反射の振幅は持続的に増大する,(2)閉口運動相と開口運動相との間で,振幅増大の程度には有意差は認められない,ことを見いだし,(1)ヒトヒラメ筋H反射は,噛みしめ時だけでなく,咀嚼運動時にも持続的促通を受ける,(2)この促通には口腔内機械受容器からの求心性情報は不可欠ではない,と結論した。 【2】つぎに,リズム顎運動中の下腿筋のH反射のこの促通の様式および中枢神経機構を,ウレタン麻酔下のウサギを用いて解析した。下腿伸筋を支配する脛骨神経および下腿屈筋を支配する総腓骨神経にそれぞれ2対の銀線双極電極を装着し,近位の電極を介する刺激によって誘発される単シナプス性反射電位(H反射を誘発する遠心性発射活動)を遠位の電極で記緑し,皮質咀嚼野連続刺激によって誘発される咀嚼運動中のこの反射の変化を検索し,(1)どちらの神経の反射電位も,咀嚼運動の発現に一致して,振幅が持続的に増大する,(2)この増大の程度は,閉口運動相と開口運動相との間で有意差はない,(3)非動化後,どちらの神経の反射電位も,皮質咀嚼野刺激により誘発されるfictivemasticationに一致して増大する,ことを見いだした。また,(4)脛骨神経および総腓骨神経それぞれの刺激により腰髄前角の運動ニューロンプールに誘発される逆行性細胞外電位の振幅は,皮質咀嚼野刺激による咀嚼運動に一致して持続的に増大した。以上の結果は,(1)咀嚼運動中の下腿筋のH反射は持続的に非相反性促通を受ける,(2)この促通には口腔内機械受容器からの求心性情報は不可欠でない、(3)運動ニューロンの興奮性の上昇がこの促通に関与している,ことを示している。
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