研究概要 |
1.イソカイメン類に於いてもallorecognition反応が認められた.その反応様式は,クロイソカイメンとダイダイイソカイメンでは,若干異なっていた.同じpopulationの個体間で癒合する組み合わせは,両種とも一組も見つからなかった.この事実から,イソカイメン類のallorecognitionを支配する遺伝子には,非常なpolymorphismが存在することが示唆される.一方,一つの雌個体より得られた幼生の間での癒合率は,80%を超え,成熟個体より予想される癒合率よりはるかに高かった.幼生時には,allorecognition能が未熟なために癒合してしまうと考えられる. 2.チゴケムシに於いても,群体間で明らかにallorecognition反応と思われる現象を観察した.その反応は,他の群体性動物と同様に癒合と非癒合で示される.非癒合の場合には,虫体の形成が阻害され,境界部に空白の虫室が残る. 3.イタボヤ類には,2群体が癒合してから数週間後に一方の群体の個虫が無くなり吸収されてしまう遅延性のallorecognition反応(colony resorption)がある.吸収する・されるの優劣は遺伝的に決められhierarchyを示すことが明らかになった.個虫の無くなるのは,無性生殖が阻害され,個虫の世代交代時に次世代の個虫の供給が止まってしまうためである. allorecognitionがカイメンやコケムシ,そしてホヤなどの群体性動物に普遍的に認められると言うことは,群体性故にこの機能を保持しているのか,或いは,この機能が動物にとって基本的な機能なのかどちらかの可能性を示唆する.この問題を解決するには,カイメンやコケムシのallorecognitionについての遺伝学的研究や認識機構の解析,さらに,他の動物門についてもallorecognition機能の有無の検定などが必要と思われる.
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