研究概要 |
本研究は,これまでほとんど顧慮されてこなかった,運動視覚刺激と眼球運動の両者の関係に一定の関連性を探ろうとする研究が基本的な着想の原点となっている.ヒトの側の要因のなかでもとりわけ眼球という感覚器と効果器が近接した器官の,知覚的側面/運動的側面の両者に測定の焦点を同時にあてるところに着想の原点がある.運動知覚にかかわる眼球運動の役割に関する研究は,「低重力環境下および宇宙空間における視・前庭系の相互関連性の研究」,並びに「反転視/逆転視の順応課程における客観的測定法としての眼球運動」の研究で,この数年間科学研究費総合研究を始めとする公的な研究費の援助を受け,その報告書も既に公にされた.視覚,とりわけ視覚的錯誤に関する研究の歴史的背景はきわめて長期,多岐にわたっている.それらの多くは知覚心理学と視覚神経生理学および大脳生理学の分野によって研究の蓄積がなされてきた.これまでの知見は,ヒト(あるいは脊椎動物)が物理的外界をどのように知覚し,それを識別,認識しているかに関する視覚特性の研究が,主として非運動的視覚対象物に関して基礎的な研究として,おもに視覚生理学の分野でなされてきた(Hubel,D.& Wiesel,T.,Marr,D.,Bishop,P.)また心理学の領域では,Rock,I.,Bischof,W.F.,Howard,I.P.,Gibson,J.J.Anstis,S.Welch,R.B.,等が数多くの研究を重ねてきた.とりわけ眼球運動が関与する研究としては,Martine,L.,Hochberg,J.,Warren,D.H.Morgan,M.J.が本研究課題に近い研究をおこなっている.眼球運動関連の研究は各種の国際学会,例えば国際心理学会でも複数のシンポジウムグループを持っており,サテライトシンポジウムも開催されている.更に,国際神経科学集会,ヨーロッパ視知覚学会(ECVP),ヨーロッパ眼球運動学会(ECEM),アメリカ(ARVO)においてもそれぞれ複数のシンポジウムを形成している.例えば1991年にベルギーのルーバン大学で開催された第6回ヨーロッパ眼球運動学会では200件を越える発表があり,動体視と眼球運動の関連性の研究のなかの一つである本研究課題は,来年出版されるプロシ-ディングにも再録が予備決定されている.
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