研究概要 |
『原因論』のラテン語版はクレモナのゲラルドゥス(1187歿)によってアラビア語から翻訳されたことは当時の文献表から確定しているが、その原典は、何時、何処で、誰によって、何語で著されたか、は不祥である。ところで、『原因論』はプロクロスの『神学鋼要』の影響下で成立している。私の研究によれば、第一原因の観点からすれば、『原因論』の思想的立場はプロクロスとトマス・アクィナスの中間形態にあり、両者を媒介していると言える。しかし『原因論』は、トマスと同じく第一原因を「存在、善一者」と捉えており、第一原因は「在参ではなく、善一者」とするプロクロスの立場と根本的に異なる。それゆえ『原因論』は「善の優位性の思想」ではなく「存在の優位性の思想」に属する。さて、この書の概要は以下のとおりである。基本的には新プラトン主義の形而上学的宇宙観を持つ。それは原因性を原理とする階層体系である。そして第一次的諸原因は諸結果に第二次的諸原因よりもより大きな影響力を持つとなす。そこからこの原因階層の体系は内に三つのhypostasis,つまり「第一原因(造られざる存在=純粋善=真の一者)」「知性者」「魂」を持つ。第一原因は、永遠と被造的存在の上に在り、絶対的に万有を超越しており、知識と言表を越えている。それにもかかわらず、これは万有に存在を与え(=創造)、万有を支配する。その充溢せる完全性は自然に溢れ出し、多様な受容者において受け取られ、その結果多様な完全性の階層が出来上がる。知性者は単純で非物体的、永遠と共在し、直知する。魂は永遠の下、時間の上に在る。自然は魂の下、時間の中に在る。かくした『原因論』の「第一原因・知性者・魂・自然」の四階層が出来上がるのである。以上を明らかにした。これを本学紀要に掲載する予定である。また新プラトン主義の影響史という観点から次代への影響の予備的研究も行ない、これを裏に上げる二論文に発表した。
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