研究概要 |
1.ヘンペルの古典的研究に端を発する帰納的,統計的説明の理論に関連する方法論的諸問題を,1970年代からの,とくにW.Salmonの仕事を中心とする新しい研究を出発点とし,これに照らして再検討した。まず,ヘンペルの古典的な理論にあきたらない理由を明らかにすることから始める。(1)ヘンペルは,統計的説明を問題にしながら,統計的関連性を事実上考慮の外に置いている。(2)ヘンペルは帰納的,統計的説明と因果的説明を峻別する。統計的説明は因果的でないと考えるのである。これに対して,われわれは統計的にのみ解釈できるような現象においても,因果関係が存在すると考えるのである。そのような因果関係を証拠だてるものが,ほかでもない統計的関連性の存在であろう。2.われわれの研究方向は,(1)統計的関連性そのものは単に説明の基礎を与えるだけであって,それ自身が説明であるとは言い難い。十分な意味での統計的説明であるためには,統計的関連性が客観的世界の因果性を正しく表していなければならない。(2)因果性の概念を,決定論的な立場から,より一般的な確率論的立場に移して,考え直す必要がある。これが,因果的および統計的アプローチを結合する道を開くであろう。3.(1)統計的関連性のモデルをまず構成し,これを研究の基礎とする。(2)次に,このような統計的関連性が存在することが,世界の因果性を証拠だてることを示そうとする。4.われわれの研究がなお不十分とすれば,それは予め因果性の存在を仮定して,それを統計的関連性のみから推論しようとするところである。
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