本研究は、能力の自己評価機能の重層モデルを提唱し、それに検討を加えることを目的とした。まず第一に「能力」がどの程度重視されているのか、その理由、および重視する自己特性は友人やそうでない人のそれとの比較において、どのような機制が働くのかを自己評価維持モデル(SEM:self-evaluation maintenance model)の観点から分析された。それによると、(1)中学生は能力(学力・運動能力など)を重視し、自分には何ができ、どの程度なのかを把握することで自分自身の能力を診断している。大学生は、性格・行動を最も重視し、ついで能力を重視した。彼らにとって他の人との関係を円滑にやっていくことは、教員の資質として重要なことと位置づけられている。(2)中学生、大学生の重視する自己特性の選択理由は同じ傾向にあり、理想自己が最も多く、ついで自己観察であり他者との社会的比較は少なかった。(3)重視する自己特性に関する友人等のそれとの比較は、全体として、SEMモデルの妥当性が低かった。とくに大学生においてはSEMモデルが妥協せず、他者との比較よりも自己の理想との比較が大きな意味をもつものといえる。 第二に、これまでの能力の自己評価に関する諸研究から、能力の自己評価の安定性が異なるとき、自己高揚的評価と自己査定的評価のいずれが能力評価において優位に作用するかに関して能力の自己評価機能の重層モデルが設定され、そのモデルに関して検討が加えられた。それによると、自己定義との関連性、心理的近さ、課題選択などの結果から能力評価が不安定なときには、自己高揚的評価機能が、評価が安定してくると自己査定的評価がそれぞれ優位に働くことが明らかにされた。
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