研究概要 |
平成3年度、4年度にわたり、コンピューター利用によるペスタロッチの道徳・宗教教育思想形成史の研究を行った。その際、ペスタロッチの原典そのままをテキストファイル化し、効率的な検索に利用する手段をとった。具体的には、Johann Heinrich Pestalozzi.Saemtliche Briefe.Herg.vom Pestalozzianum13Bde.1946-1971の全巻、及び、Peatalozzi.Saemtliche Werke.Kritische Ausgabe.1927ff.30 Bde.のうちの10巻分につき、暫定的なテキストファイル化を完了した。このデータベースの利用と、ペスタロッチの宗教、道徳教育思想研究の古典的文献の分析とを組み合わせ用いることにより、研究課題に即する一定の研究成果を得た。その一部は論文で発表したが、今後も順次,学会誌等に発表する予定である。 この研究で得られた知見の若干を挙げれば、次の通りである。 1.ペスタロッチの宗教、信仰観は当時の時代背景の中で独特な位置を占める,きわめて実践的、かつ根源的なものであった。 2.ペスタロッチにおける道徳教育思想は、いわゆるきれい事に留まらず、人間の自然本性の諸相を踏まえた、きわめて実存的なものであった。道徳と立法との関係、道徳と人間の衝動との関係、道徳と国家権力との関係等に関する彼の洞察はきわめて鋭く、今日でもなお示唆的である。 ペスタロッチは自分の学園での教育において、宗教教育を重視しながらも、宗派主義的な宗教教育に固執せず、超宗派的な宗教教育を志向した。特にカトリック教徒に対する柔軟な姿勢は、時代をはるかに超えていた。 4.ペスタロッチの道徳・宗教教育思想は、わが国に受容される際に、独特なかたちで日本化された。
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