研究概要 |
マレ-シアのイスラ-ムの制度的位置づけに関して,既に収集した資料を中心に整理・分析を進めた。マレ-シアはイスラ-ムを連邦の国教としているが,イスラ-ムを管轄するのは原則的に州であり,各州でイスラ-ム行政規則が定められている。しかし,他方で民間におけるイスラ-ム復興運動に対応して,イスラ-ムに対する連邦政府の行政関与も増大しており,イスラ-ム教育に関する連邦と州の関係も変化しつつある。これまで十分に収集できていない州レベルの資料について,京都大学東南アジア研究センタ-,国立民族学博物館,静岡県立大学国際関係学部等で資料調査を行ったが,法規や実態の詳細な分析を行うにはまだ不足している。 マレ-シアでは信仰の自由が保障されているが,華人系やインド系の住民は自らの信仰と民族文化が脅かされることを危惧している。公立の学校において,ムスリム(その殆どがマレ-系)の生徒に対してイスラム宗教知識が必修科目として置かれ,他方,非ムスリムには道徳教育が課されるが,その内容にマレ-文化とイスラ-ムの要素の混入が見られる。また,イスラ-ム復興運動への政府の積極的な関与も非ムスリムの生活と教育に大きな影響を及ぼしている。一方,開発政策の推進によって,農村部においてイスラ-ムをめぐる政治的対立が顕在化し,村の伝統的なイスラ-ム学習もこの対立と無関係ではない。他にも,州立のイスラ-ム中学校に関して,連邦の資格試験受験等があって運営が難しく,財政的な問題から連邦に移管される例が見られる等,イスラ-ム教育の講造も公教育におけるイスラ-ムの位置づけも大きく変化している。今後は,インドネシアとの比較検討を行い何らかの形で研究報告にまとめる予定である。
|