本研究を行うにあたり、ケ-ス・スタディのために長崎県五島列島の各市町を対象地域に選び、4度にわたる現地調査を実施した。当該地域の伝統的な民俗文化については数多くの報告がなされているため、あわせて関係文献の収集もおこなった。本研究が目指す「伝統的な民俗」と「つくられた民俗」との比較のために、後者の「つくられた民俗」として、近年ブ-ムともいうべき増加を見せている和太鼓を取り上げることにした。現地調査においては、対象地域に存在する創作太鼓のグル-プ、あるいは調査時点で結成されつつある創作太鼓のグル-プの実態把握を中心とした。本研究の結果明らかになったのは以下の諸点である。 (1)長崎県では、平成2年の「旅博覧会」の実施やさまざまな地域振興施策などの影響もあって、各地に地域活性化グル-プが活動を展開しており、多くの和太鼓グル-プの成立は、そのような動向の中に位置付けることが可能である。 (2)和太鼓のグル-プには、自治体等による支援をうけて成立している例も少なくなく、その背後には「新しい郷土芸能の創設」といった郷土意識をうたうイデオロギ-の役割を見出しうる。 (3)過疎化・高齢化によって大きなダメ-ジを受けている伝統的民俗にたいして、町おこしにつながるような、創作太鼓やいわゆるイベント行事などに見られる「つくられた民俗」の創造活動はむしろ活発である。 (4)現代における民俗学の役割を考えるとき、研究対象とすべきものが「本物の民俗」か「疑似民俗」かを論じることよりも、むしろこのようなフォ-クロリズムの現象を積極的に解明してゆくことが求められている。
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