本研究の目的は、南西諸島における抽籖制に関する文化人類学的な分析である。 1.現状の把握:平成3年度は、宮古島城辺町と平良市の村落でフィールドワークを行い、さらに民俗誌の分析により研究を進めた。平成4年度は、石垣島南部と竹富島の村落でフィールドワークを行い、祭司選定に関する抽籖制の変差について、従来の報告にはなかった事例を確認することができた。[大越 1993] 2.地域的差異:抽籖の方法における宮古島と石垣島の差異が明確であり(紙による抽籖と米粒による抽籖)、これが示差的な特徴であると考えた。 3.民族論理と受容態度:今回の調査でも抽籖の偶然的結果を超自然的存在の啓示と受け取る考え方が、やはり一般的であった。結果の解釈にみる<合理化>は、受容態度の明確な表現の一つである。 4.変遷過程のモデル作成:その起点となるこの制度のはじまりが、明治初期とする従来の考え方よりもっと遡るだろうとする見方を多く聞くことができたが、やはりこれも明確な根拠がないまま言い伝えられているものである。 5.比較研究の視点を提示する試み:宮古島と石垣島での差異の分析が、視点の提示に大きな意味をもつであろういうい見通しをもった。 6.命名の習俗と抽籖制の関連:伊良部島の一事例をまとめた[大越 1991]。決して整った形で伝承されている世界観ではないが、名前のつけ方を通して、人、祖先、神とのつながりの一端をうかがえた。 今後は、この成果をもとに、奄美群島や薩南諸島での調査・研究へと展開させることを企図している。
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