研究概要 |
本研究は計画が縮小され単年度となったため,当初予定していた課題を整理し遂行した.すなわち,研究代表者が参加している国際学術研究「在米アイヌ関係資料の民族学的研究」と連動しつつ,そこでの調査資料から,地域,年代のわかるものを選択し基礎資料としたうえで,研究対象も衣服および編みかご(サラニプ)に絞りおこなった.一方,道内の博物館資料のうち,噴火湾地方のまとまったコレクションがある北海道開拓記念館蔵資料,児玉コレクションの一部,白老アイヌ民族博物館,平取町アイヌ資料館,北海道大学図書館を調査した. 調査では,アイヌ文様のある木綿衣服のうち,ルウンペ,カパラミプとそれぞれ呼ばれるものについて,両者の関係すなわち前者から後者が誕生する過程をあとづけることができ,また,明治初期に収集された資料にはカパラミプは確認されず,したがってその成立は,従来推測されていたように,明治中期以降であることを立証できた.さらにこれまで白老地方のものとされてきたある種のルウンペの文様について,虻田など噴火湾地方に広がっていたことが確認できた.また,編みかごはラシサラニプと呼ばれるものについて,資料の観察・比較から製作方法を復元する試みをおこない製作方法を確認できた.とくにサラニブ調査は,今後のアイヌ編みかご研究の基礎資料を提供するものであるが,同時に編みかご製作のマニュアルとしてアイヌ民族の伝承活動にも寄与しうるものがある.今後は,衣服・編みかご研究において,今回得られた見通しをさらに発展させるため,ほかの種類の衣服文様,あるいはサラニプを考察対象に含め,全体の系統をかんがえていく必要がある.また,今回の研究で,収集地・年代など付帯状況がわかる資料の重要性が再確認できた.そうした資料を蓄積すべく,国内外のアイヌ資料について,未調査のものの調査が望まれる.
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