「近世以降における都市内水運の展開」をテーマとする本研究の本年度の研究計画は、近代資本主義の発展と、交通・運輸の発展との関連について、鉄道・港湾を中心に検討する中で、東京の都市内水運のはたした役割について検討に努めた。 まず、東京における物資輸送全般について、都市内水運の役割とその変化について明らかにするために、都市内水運と鉄道・海運・河川舟運との関連について、検討する中で、特に艀(はしけ)の活動について全般的な資料の収集整理を行い、その都市内水運において果たした役割について検討することができた。この艀こそ、都市内水運の直接の担い手として、特に鉄道・海運によって、大量に都市に出入りする物資の輸送に、全面的に関わる存在であり、工業立地についても、都市内水運の担い手としての艀との関連を抜きにしては考えられないことがわかった。 このような都市内水運への依存は、東京のみならず大阪・名古屋・横浜・神戸などの港湾都市においても同様であった。しかし、鉄道・海運と艀との関係は、鉄道・海運による輸送量の増大が、艀取りによらなくてはならない艀の輸送上の隘路となり、港湾・鉄道の整備の必要を生じた。その結果、港湾の浚渫を行い大型船の接岸を可能にすると共に、鉄道の臨港線を建設し、海運と鉄道輸送との直結がはかられ、艀による積み取りはより活発になっていった。しかし、艀にかわる新しい輸送手段として、自動車輸送次第に発達すると、都市内水運はやがて衰退していった点を検討することができた。
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