研究概要 |
本研究の目的は、「聖職禄希望者名簿」と「レットル・コミュ-ヌ」という二つの史料を用いて、ウルバヌスV世在位期を中心とする西欧中世末期の教会をめぐる人間構造を明らかにしようとするもので,今年度の研究実績の概要は次の通りである。 (1)ウルバヌスV世の在位第一年目に焦点をあてて研究した。刊本史料としては,Institut historigue belge de RomeからAnalecta VaticanoーBelgicaの一冊として刊行されている「聖職禄希望者名簿」を利用した。この史料が集録している人的素材は,かつてのカンブレ、リエ-ジュ,テルアンヌ,トゥ-ルネ司教区を出身地とする聖職禄希望者か,あるいはそれらの司教区に存在する聖職禄の希望者で,この史料的制約から,研究対象の地理的重心は上記4司教区におかれた。 (2)ウルバヌスV世在位第一年目には,上記史料にもとづけば,1100名以上が聖職禄希望者名簿に名を連らね,彼らの希望が教皇庁によって受理されている。聖職禄の希望は,それを希望する本人から提出される場合よりも,聖界有力者,俗界有力者,特定の団体(とくに大学)を仲介として提出される場合の方が一般的であることが明らかになった。 (3)聖界の仲介者としては枢機卿,司教が大きな部分を占める。そして彼らに仲介された聖職禄希望者は,彼らのfamiliarisであることがしばしばあること,また,俗界の仲介者としては王とその一族,あるいは顕職にある者が多く,彼らが仲介する聖職禄希望者も,彼らと縁戚関係にある者や彼らに仕える者が多いことが明きらかになった。 (4)今後は聖職禄希望者の経歴(学歴,教会的経歴など)を分析し,併せて,「レットル・コミュ-ヌ」の記述と希望聖職禄との照合を行なう。また対象とする時代をウルバヌスV世期に限定せず若干拡大するなどし,より詳細な教会の人的構造の解明に向かう作業を行なう。
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