研究概要 |
源氏物語の注釈研究は,宗祇から三条西実隆へと伝来し,室町中期から江戸初期にかけて主流となっていったが,それとは別に宗祇説を継承しながら,また独自の注釈の世界を作りあげたのが,月村斎宗碩とその門流の宗牧・周桂・永閑等で,その研究史における意義について,次の諸点を明らかにしていった。 1.宗碩の6巻からなる現在は散逸している「宗碩抄」は,永閑の『萬水一露』に「碩」として吸収される。国立国会図書館本『萬水一露』は,もとの資料となった「永閑聞書」であったことを明らかにし,それに師の宗碩注を取り込み,注釈書を作成していった過程を考察した。2.宗碩の現存する源氏物語の注釈資料は,『萬水一露』の「碩」注だけでなく,『長珊聞書』(陽明文庫)・永正十三年書き入れ本『源氏物語』(天理図書館)・『源氏聞書』(龍谷大学図書館)・『聞源抄』(東北大学図書館)にも見られること,さらにそれぞれの注釈書の成立した背景についても明らかにした。 3 宗碩の注釈方法を知るため,「碩」注にみられる「当流」とする注記を分析し,それが三条西家の説の継承であること,また学問の家の意識の形成も明らかにした。4.宗碩の源氏物語の解釈の特色について,具体的に桐壷更衣を「楊貴妃のためし」とすること,桐壷更衣の処遇方法などについて,『長珊聞書』や書き入れ本『源氏物語』,『源氏物語聞書』等の注記との相違やそれ以前の古注の流れに位置づけ,研究史に占める意義を考察していった。
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