楚辞諸作品は、伝説的には戦国時代の屈原の作だとされるが、その内容や形式から見て、相当に長い時代をかけて形成されたものだと推定される。 それら楚辞作品を、離騒篇を軸にして、前期作品、離騒篇、後期作品とに、大きく三分割することができる。前期作品は、楚辞文芸の基礎となったであろう、宗教芸能的な要素を強く留めたものである。それに対して、楚辞の後期作品では、登場する主人公の個人的な苦悩が中心に描かれる。そうした個人的な苦悩を核にして屈原伝説が形成され、またそうした苦悩を超越するために、天界遊行が盛んに歌われるのである。 楚辞後期作品に顕著な天界遊行の記述は、老荘思想の遊の観念と密接な関係を持っている。楚辞の中でも遠遊篇に記述される天界遊行の内容は、「淮南子」と重なるところがあり、遠遊篇の成立もほぼ同時代と考えることができる。天上遊行の内容は、時代の中で大きく変化している。天上遊行を中心にして見た、遠遊篇との共通性、および非共通性の検討から、楚辞後期作品の、おおよその年代づけが可能であり、それら後期作品の基点に位置する離騒篇の年代も、おおまかに定めることができる。いく人かの学者によって主張されている、離騒篇を「淮南子」と同年代の作だとする説は、成立しがたいことが知られるのである。
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